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ensōの日誌 / かっこいいお店は、お金を借りるところから始まっていた

2026.10.30

イベントレポート

かっこいいお店は、お金を借りるところから始まっていた

10月27日の夜、ensō で座談会「高山をにぎわす かっこいいお店の金策を語る」を開催しました。

語り手は、高山でお店を営む3人です。オータム吉日の藤田可那子さん、Falò Coffee Brewers と EMBER espresso の竹橋寛記さん、alba の田上雄介さん。聞き手役は私、中村が務めました。

テーマは、開業時の「金策」。

ensōを始めるとき、生まれて初めて大きな借入をしました。
自分がやりたいことを説明して、他人を説得してお金を出していただくというプロセスは想像以上に大変で、ひと山越えたところでふと浮かんだのが、いつもお店でおいしいものを出しながら気楽なおしゃべりを楽しませてくれる、店主たちの顔でした。
彼らも、数年前にひとりでこれを乗り越えてきたのか。そう思うと尊敬の念が抑えられず、一度じっくり話を聞いてみたくなったのが、この座談会のきっかけでした。

聞き手の方による秋満載のケータリング

スペシャルゲストとしてお招きしたのは、一般財団法人ひだ財団の小峠さん。かつて地方銀行で融資を担当し、高山市の創業支援にも携わるなど、さまざまな角度から飛騨のお金の動きを見てきた、地域金融のプロフェッショナルです。
一人ひとり事情の異なる経験談に対して、プロの目線から解説コメントを入れていただくようお願いしました。

予算は、上限から決める?理想から落とす?

最初に聞いたのは、ズバリ開店にいくらかかり、その予算をどう決めたのか。3人の答えは、見事にばらばらでした。

オータム吉日の藤田さんは大阪の出身です。家具をつくりたくて高山に来て、木工を学び、家具づくりの仕事をしていました。古道具屋はいつかやりたいけれど、それは40代か50代の楽しみ。そのくらいに考えていたそうです。

藤田さん(オータム吉日)

転機は、会社員のまま年を重ねていく自分の姿がふと見えたことでした。不満を言いながら続けるくらいなら、いっそやりたいことをやってしまおうと振り切ります。
高山市の創業支援が手厚かったことも後押しになりました。だめならまた別のことをすればいい、という気持ちで踏み切った開業です。

予算は、まず上限を先に定めるスタイルでした。
何店舗も構えて人を雇うのではなく、自分一人で回せる範囲で、自分の経済を回したい。だから借りる額は自分で返していける範囲に決め、それを絶対に超えられない予算として定めて、設計や施工方法を設計士さんと詰めていきます。
予算削減のためにDIYできる部分を、設計を担当していた淺野さん(株式会社コンパス/淺野翼建築設計室)に提案してもらい、床と天井を剥がし、壁の板を張るところまでは自分の手で進めました。
それはそれは大変な作業で、現場の周りには毎日、藤田さんの叫び声がこだましていたとか…。

一方で、Falòの竹橋さんは、逆のアプローチでした。

竹橋さん(Falò Coffee Brewers / EMBER espresso )

コーヒーの機材だけは、絶対に妥協できない。その一点は先にあったものの、改装工事については当時全く相場がわからず、想像を超える金額が出てきてしまいます。
先に予算を定めることは不可能なので、ある程度要件を詰めた上で出た金額を前提に、その返済をしていくためにどうやってビジネスを成り立たせるかを考えた、とのこと。

藤田さんのように内装をDIYでコストを下げるという選択肢は、最初からありませんでした。思い描いていたお店の理想像があり、その仕上がりは、やはりプロに任せたかったからです。

田上さん(alba)

東京・銀座の一流店で腕を磨いたあと、地元に戻ってきた alba の田上さん。自分の店を東京で出すという選択肢は、まったく考えなかったそうです。
仕事ありきで住む場所を選ぶのではなく、まず自分が心地よく暮らせる場所で働く。それが田上さんの選択の前提にありました。

ただ意外なことに、帰省してすぐに独立を決めたわけではありません。自分でやると思い切れるほど自信のある人間ではなかった、と田上さんは振り返ります。
間借りの営業やイベント出店を続けるうちに、周りから何度も「お前なら大丈夫だ」と背中を押され、とうとう決めたのは、開店のわずか半年ほど前のことでした。

屋台村「でこなる横丁」での出店から独立した田上さんの場合、いちばんお金がかかるのは厨房機器だと分かっていました。図面を見ながら何をどこに置くかを決め、ひとつずつ見積もりを取り、運転資金が少し残るように借りました。

そして、2026年中のオープンを目指して現在準備中の新店舗では、ご自身で壁を塗るなど、積極的に手を動かしています。
DIYはコスト削減のためではなく、「楽しいから」。人生で店をつくる機会なんて数えるほどしかないのだから、やれるところは自分でやって、少しでも関わりたい。ここは自分でやったんですよ、とお客さんに話せることもうれしいのだといいます。

金融機関まで、コーヒーを淹れに行った人

当日は、具体的な数字や金融機関とのやりとりにまで踏み込んだ話になりました。経営に関わる生々しい内容なので、このレポートにはくわしく記せないのですが…
「融資」への向き合い方が変わるかもしれない具体的なエピソードをひとつ、紹介させてください。

大阪出身の竹橋さんは、海外でバリスタの経験を積み、コロナ禍の最中に帰国しました。店を持つなら都市部ではなく地方で、と決めていて、高山はずっと好きな街でした。
当時の高山にはスペシャルティコーヒーの店がまだ少なく、自分が広げていく楽しみがある。それに、飛騨に住む人たちの温かさが好きだった。理由はその両方だったと言います。

高山に移住してからは、コーヒーマシンを担いで飛騨各地のマルシェやイベントに出店したり、間借りでのポップアップ営業を続けながら、物件を探す日々。
借入にあたってのチャレンジは、高山で働いた実績も身寄りもなかった自分が、この事業をやれる人間だとどうやって示すか。

竹橋さんは事業計画書に加えて、ポップアップ営業での販売数などもまとめて金融機関に提出。当時の活動が新聞に取り上げられた記事も、強力な判断材料になったのではと振り返ります。
留学も、国内や海外でのカフェ勤務も、たまたま一本の線になって今の店につながった。その線が見えると説得力が出る、というのが竹橋さんの実感です。

そのうえで、当時の融資担当の方や上席の方に、コーヒーを淹れに行って飲んでもらう機会もつくりました。資料だけでは伝わらないスペシャルティコーヒーの味と自分の仕事ぶりを、直接見てもらうためです。

いつか開業したいと思っているけど、借入ってどうやってやるんだろう。そんな人に、じつは今のうちから準備できることがたくさんあると気づかせてくれるエピソードではないでしょうか。

まちのにぎわいを支えるもの

借りたお金が、まちのにぎわいをつくっている。
3人の話を聞きながら、そう感じていました。そしてそのお金の裏には、借りると決めたときの、一人ひとりの挑戦がありました。

普段何気なく通っている一軒一軒も、最初は誰かに自分のやりたい事業を説明し、納得してもらうところから始まっています。いいよ頑張んなよ、とお金の形で応援を受けて、ようやくお店の形になる。
かっこいいお店をはじめたオーナーたちの小さな覚悟が重なって、いまの高山のにぎわいを形作っているのだと感じます。

これから何かを始めたい人にとって、商工会議所や金融機関の相談窓口はもちろん頼りになります。ただ、自分でやってきた人たちのリアルな話に勝る教えは、やはりありません。お店のカウンター越しに切り出すわけにはいかないそんな話を、この夜は2時間かけて聞かせてもらいました。

新しく何かを始めるには難しい時代だと言われます。それでも、先輩の金策の話がお金にまつわる閉塞感や借入への不安を少しほぐしてくれて、次のチャレンジャーがこのまちからまた生まれてくるかもしれない。
この座談会が、そのきっかけのひとつになっていたらうれしいです。

(ちなみに藤田さんの背中を押したという高山市の創業支援制度は、今回の語り手3人とも利用していて、私ももちろん使わせてもらっています。ご存知なかった方は、ぜひ高山商工会議所で次の募集をチェックしてください!)